男は疑う様子もなくグラスを受け取ると、それをぐいっと半分ほど飲んでから、思い出したように僕へ視線を向けてきた。

「ありがとう」

 前触れもなく、真っ直ぐ言われた言葉の意味を理解するのに、時間はかからなかった。僕は目を丸くして、彼をまじまじと見つめ返す。

「お父様に会えたんですか?」
「ああ。おかげでスッキリしたよ。親父からも、あんたに礼を言って欲しいと伝言をもらった」

 少し泣きそうな顔に、男が口を引き上げるようなぎこちない笑みを浮かべた。

 死者の夢はとても脆く儚いから、彼の夢を伝って、彼の父の『最期の夢』が残っているのか確認する事が出来ないでいた。これは一つの賭けだったので、僕は「無事に望む夢へ渡れたようで良かった……」と思わず本音を吐露して、胸を撫で下ろした。