「少し赤くなっている程度ですから、問題ないでしょう。かなり大きな音があがりましたが、彼は結構な石頭のようです。――それで、彼は今『夢』を?」

 僕が頷いて見せると、省吾さんが「相変わらずのお節介ですね」と苦笑を浮かべた。叱りを受ける覚悟で男の目覚めを待つ僕に「ひとまず、落ち着いてください」と言って、冷水入りのグラスを置いた。


 男が目を覚ましたのは、それから十五分ほど経った頃だった。

 彼はカウンターの上に伏せた状態で、少し身じろぎして顔を顰めたかと思うと、ゆっくりと頭を持ち上げて額に手を置いた。


「なんか、やけに頭が痛いな……」
「ロックで飲まれておりましたからねぇ。どうぞ、レモン水です」
「ん? ああ、ありがとう」

 僕が謝罪するよりも早く、省吾さんがカウンターから氷水の入ったグラスを男に差し出した。どうやら省吾さんは、カウンターに額を打ちつけた事実を、このままなかった事にするつもりらしい。