医者は帰宅を促し、俺に親父を引き取らせた。もう手の施しようがない。今の段階で手術の方法はないのだと告げた。薬を出すので、きちんと時間を計って飲ませてください、発作が起きた場合はすぐ病院まで向かわせて……


 長々と医者は説明し、最後に「彼は長くはないだろう」と言葉をしめて、申し訳なさそうに俺達を見送った。

 車に乗せられたようやく、親父は俺の顔を認めて「イツキか」と薄ら思い出したようにぼやいた。俺は、外に出たままだった親父の足を後部座席に収めながら、苛立ってこう言い返した。

「ああ、俺がイツキだよ。あんたの息子で、あんたが馬鹿にしてた不出来なガキだ」

 親父は小さくなるように視線を落とし、足元の暗がりに顔を向けて「すまんなぁ」と弱々しい言葉をもらした。

 やめてくれよ。

 なんで今更、そんなこと言うんだよ。

 俺は、無言で運転席に乗り込んだ。親父は、時間間隔も記憶もおぼろげな癖に、らしくもない表情と態度で「苦労をかけてすまない」ともう一度謝った。