「――つまり、絶対ではないってことだよな。親父が『夢』を残していなければ、なんの意味もない」


 こうも物分かりがいいのは、酒が入っているせいだろうか。全くもってその通りではあるのだが、依頼人ですらうろんげに睨みつけてくるというのに、妙な男だと僕は思った。

 純粋というか、真っ直ぐというか……この男が父親のために、二十代の約六年間を捧げた善良心の本質をそこに見たような気がした。多分、彼はとても信心深い一面が――

 その時、男が唐突に「やってみてくれ」と言った。

 この短いやりとりで了承をもらったことに驚いて、僕は思案も吹き飛んで「えっ」と声を上げてしまった。

「いいんですか? 本当に?」
「お前、ボランティアでやっていると言っていただろう。依頼人でもない俺にしようとしているって事は、お前は根っからのお節介野郎ってことだ。構わないさ。良い人間は、ここ六年でたくさん見てきた」

 同じ二十八歳とは思えないほど、達観した考え方を持った男だ。僕は、彼の悲しみが少しでも軽くなってくれればいいのにと思いながら、リラックスして目を閉じてください、と指示した。