「ふうん、霊能力みたいなものか?」
「いえ、幽霊は見えないです」

 僕がぴしゃりと否定すると、男は「なんだ、幽霊は見えないのか」と嫌がる顔をする訳でもなく、グラスを口許で傾けた。

 いちいち絵になるような大人びた仕草だな、と思いながら、僕は説明を続けた。

「夢というのは色々とあって、記憶や理想、想いがぼんやりとした風船のように頭の中を漂っている感じなんです。風船は本人の心そのものですから、外に出されると、引力みたいに必要な誰かの夢を引き寄せる事があります。だから僕は、その風船を手繰り寄せて、少しの間、身体の外に出すお手伝いをしていると言いますか……うん、説明するのがすごく難しいんですけど、僕の能力だと『風船』と表現するほうがしっくりくるんですよね……」

 兄からも「よく分からん」とスッパリ切り捨てられる内容である。いつも説明が下手だ、口下手すぎると散々言われていた事を思い出して、僕が思わず言葉を濁すと、男の方が「おい」と声を掛けてきた。