「親父、愛してる」
「知ってる。お前は俺が大好きなんだろ、そんなのとっくにお見通しだ。何年お前の親父をやってると思っているんだ?」

 そんなに露骨だったのだろうか。

 俺が視線で問うと、親父は茶化すように口角を引き上げて「バレバレなんだよ」と言った。そして、ビールを持っている手を俺に向けて、人差し指を立てた。

「俺だって、お前を愛してるぜ、クソガキ」
「そうか。俺も愛してる、クソ親父」

 数秒ほど見つめ合って、俺達は笑った。こんなに楽しいのは、久しぶりだった。

 すると、親父がふっと席を立った。

「そろそろ、行くかな。あのガキには礼を言っておいてくれ。お前に泣かれ続ける状況を、俺としても、どうしてくれようかと悩んでいたところだったんだ。感謝するって、そう伝えておけ」

 親父が俺に背を向けて、「あばよ」と後ろ手を振った。

 なんだか親父らしい別れだなと、俺は場違いな事を思った。

             ※※※

 長い話を聞き終わる頃には、時刻は明朝に差し掛かっていた。