「親父は、寂しくなかったか」
「馬鹿いえ、じゅうぶん過ぎるほど楽しかったぞ。こうして、お前と飲むような何気ない『夢』を見るくらいに。――お前は楽しくなかったのか?」
「……楽しかったよ。楽しくて、毎日が、飽きないような苦労だった」

 俺は湯気の向こうへ再び目を向けて、伝えるべき言葉を探しながら口にした。

 横顔に、どこか楽しげな親父の視線を感じた。きっと酔っているせいだろう。俺は唐突に、普段なら恥ずかしくて言えなかった台詞を口にしていた。


「親父。俺は家族として、あんたを愛していたよ」


 愛してる。今でも、忘れられないほど――ずっと愛していた。

 そこで俺は不意に、現実を思い出した。親父は春を迎える前に亡くなったのだ。俺はたった一人、親父の仏壇の面倒を見ながら、秋先の季節をつまらなく過ごしていたのであって、つまりこの状況は現実には有り得ないものだった。

 もしかしたら俺は、夢を見ているのだろう。

 だから、こんなにも冷静でいられるのだろうかと不思議に思った時には、俺は既に隣の彼を振り返っていて、落ち着いた口調でこう告げていた。