しばらく、ぼんやりと立ち昇る湯気を眺めていた。親父に、何か言わなければならない事があったような気がして、俺は酔い心地の頭でしばし考えた。

「――ああ、そうだ。『お疲れ様』」
「何がだ?」
「さぁ、なんだったかな」

 よく分からない、と俺が思案気に答えると、親父が喉の奥でくつくつと笑った。

 俺は霞みかかった思考のまま、もう一度首を捻った。親父に言いたかったのは、もっと別の言葉だったような気がした。ふっと一つの言葉が浮かんで、彼の方を見てそのままそれを口にしてみた。

「親父、『ごめん』」
「それ、飽きるぐらい何度も聞いたぜ」
「そうだったか?」
「勝手に終わらせたらお前が怒るかと思って、ちゃんと声を掛けにいっただろ。あの煙草、美味かったな。出る前に、最後の一服の匂いが嗅げて良かった。俺は満足さ」

 陽気な親父の横顔には、穏やかな満足そうな笑みが浮かんでいた。持ち上げたビールを楽しげに眺めているその横顔を見つめ、俺はこう尋ねた。