辺りを見回した俺は、自分が夜道にあるおでん屋台のカウンター席に腰掛けている事に気付いた。そうか、いつの間にか移動していたのかと俺は不思議にも思わなかった。店主は少し席を外しているのか、カウンター内には誰もいない。


「飲み過ぎたせいだろ」


 心の疑問に答えるように懐かしい声が聞こえて、俺は顔をそちらへと向けた。

 隣の席に、おでんをやりながらビールを飲んでいる親父がいた。この状況に一瞬だけ、妙だなという違和感が過ぎったものの、理由をはっきりと思い出せなかった。

 俺は「かもしれないな」と答えて、自分の手元にあるビールを口へと煽った。いつか親父と、こうして飲みたいと話していた事があったが、今がそうだったのかと、不思議とこの状況を受け入れている自分がいた。

 おでんが、ぐつぐつと煮える音がする。夜風が冷たくて、俺はコートの襟を立てた。コートなんて時期外れな物を着ていただろうか、と考えて、またしても小さな違和感を覚える。けれど、やはり頭が霞みかかったようにハッキリとしない。