親父の様子を見るため起き続ける予定だった俺は、腫れて重くなった目を少しどうにかするべく重い腰を上げた。廊下に出ると、すぐそこのナースステーションの灯りの前で、車椅子に座った中年男が、女性に押されながらエレベーターに乗っていくのが見えた。

 ナースステーション前の自動販売機にホットのブラック珈琲缶がなく、俺は渋々、一階の自動販売機まで足を運んだ。

 一階ロビーの自動販売機でブラックの珈琲缶を購入した時、煙草をしばらく吸っていなかった事を思い出した。不意に煙草が吸いたくなり、病院の敷地を出てすぐのバス停で一服しながら、ハンカチに包んだコーヒー缶を目にあてがった。

 頭上に広がった夜空には、無数の星の輝きが広がっていた。親父の通う総合病院は、住宅街のない高台の上にあったから見晴らしがいい。いつだったか、車椅子に乗せた親父をここまで連れてきて、何度となく煙草を吸ったのを思い出した。

 不意に、強烈な悲しみが俺を襲った。