もう一度「良かったな」と声を掛けて、親父の頭に手を伸ばした。労うようにその髪を撫で梳いた途端、強い愛おしさが胸を貫いて、俺は堪え切れず、咄嗟に手で口許を押さえて咽び泣いた。

 こんなにも愛おしいのだと、容赦なく胸を抉られた。深い愛情は、心が粉々になるほどの痛み伴って、俺に愛がなんたるものかを悟らせてきた。そして、それを親父に伝えられない現実を目の前に、俺は激しい後悔と悲しみを覚えた。

 俺は再会して一度でも、家族として尊敬して好きだったと――

 そう伝えたことは、あっただろうか?

「愛してる。愛しているんだ…………息子として、あんたのことを……」

 再会する前の親父の事なんて、俺は知らない。でも闘病で頑張っていた親父の事は、誰よりもよく知っていた。そして、そんな親父を、俺は誰よりも深く愛していたのだと、ようやく気付かされたのだ。


 どれぐらい泣いただろうか。ふっと目を向けると、扉のガラス窓の向こうに広がる廊下が、既に消灯されていた。