すっかり痩せ細った親父の寝顔を見ていると、涙が溢れそうになった。親父は老人のように力なく口を開けたまま、ゆっくりとした呼吸を繰り返している。

 親父の脈が落ちている事は、計測器や親父の呼吸音の間隔からも分かっていた。ずっと身構えていたとはいえ、こんなにも呆気ない別れが唐突にやってくる現実に、俺の胸は張り裂けんばかりの悲鳴を上げていた。


 陽が次第に傾き、夕日も夜へと呑み込まれた。

 やってきた看護師が、病室のカーテンが開いたままである事に気付いて閉めた。俺は何も掛ける言葉がなかったし、看護師もじっとする俺を放っておいてくれた。


 眠り続ける親父は、数日前に散髪が済んでいたので、頭部はすっきりとしていた。昨日の夜にでも髭剃りをしてもらったのか、顎周りもきれいだった。つい手を握ってみた時、嫌な体臭もしない事に俺は遅れて気付いた。

 毎日、丁寧にキレイに、大事にされていたのだ。

 俺は言葉が返ってこないと知りながら、親父に向かって「良かったな。ここの人は、皆優しいな」と声をかけた。ひどい鼻声だった。俺の声が変だなと笑い飛ばしてやりたかったのに、涙腺が緩んで、そんな冗談を口に出来る余裕はなかった。