これまでも、出来るだけ傍にいるようにはしていたと思う。けれど、それで本当に良かったのだろうかと、俺は後悔を覚え始めていた。会社を辞めて、出来るだけ親父と一緒にいるという選択肢も、あったのではないだろうか?

「お父様は、いつもあなたを自慢されておりました」

 その時、しばらく俺を見つめていた担当医が、不意にそう言った。

「あなたは驚くほど献身的に、よくやったと思います。若くとも立派にやりとげたのだと、私はそう思います」

 そう告げた担当医は「出過ぎた言葉だと聞き流してくれてもかまいません。ですが、どうか自分を責めないで下さい」と言葉を残して、病室を出ていった。

 俺は、また溢れてきた涙を拭って、親父のそばに座り直した。

 一時間ごとに、看護師が親父の様子を見に顔を出した。数値をチェックし、点滴の状態を確認していく。俺は、親父が昼食前のつまみにするはずだった、サイドテーブルに置かれたままの菓子パンの残りを食べ、備え付けの冷蔵庫に入れられたまま手を付けられていないペットボトルの一つを取り出して飲んだ。