俺は、そこで一度ベッドの方を振り返った。人工呼吸器を付けた親父が、力なく口を開けている寝顔が見えた。

「…………親父は――父は、苦しくないでしょうか」
「いいえ、苦しみはありません。お父様は、恐らく深い昏睡に入った後、じょじょに心臓が活動を止めるだろうと思われます。意識もなく、苦痛もないでしょう」

 それは重病の患者にとって、ある意味穏やかな最期のようにも思われた。親父は発作による激痛で苦しみ続ける事もなく、深い眠りの中で、約六年も続いた闘病生活に終わりを迎えるのである。

 けれど突きつけられた現実は耐えがたく、理性で考えるよりも俺は冷静ではいられなかった。もっと話しておけばよかったと、親父の声や笑顔が、もう恋しくてたまらなかった。

「……最期まで、親父のそばにいます。きちんと、見届けます」

 それが、面倒を見ると決めた俺の、大事な役目だと思った。親父も寂しいのが嫌で、ところ構わず話しを続けていたのだろうと考えれば、また涙腺が緩んだ。