親父の手になんて、触らなければ良かったと思った。もう起きてはくれないのだと、俺はその手の感触から悟ってしまった。誰かの死を看取った経験はないけれど、同じように生きる人間としての本能が、俺に死期の前触れを告げていた。


 しばらくしてやってきた担当医は、後ろから付いてきた看護師を一旦外に待たせて扉を閉めた。俺は気遣いに感謝し「すみません」と謝り、袖口で涙を拭った。


 担当医は同情するように俺を見た後、長く息を吐き出して冷静な顔で話し始めた。

 多くの入院患者を看取ってきた彼の見解によると、親父の症状は死を迎える人間のそれであるらしい。電話口でも聞かされた内容を、改めて説明された俺は、頷いて静かに話を聞くしかなかった。

「恐らく、今日か明日かと思われます」
「親父は、もう目覚めないのでしょうか……?」
「脈の下がり具合から見ると、このままゆっくりと深い昏睡状態に入るでしょう」

 担当医は、俺の質問に淡々と答えた。