幼い頃、数える程度に父親らしい顔をしていた親父の様子が浮かび、俺は結局のところ「分かった」と答えて病院に向かう事にした。会いに行かなければならないという妙な焦燥感と、会いたくないという苛立ちが胸中で渦巻き、胸の鼓動が耳元で煩かった。


 久しぶりに会った親父は、弱りきって小さくなっていた。

 再会してすぐ、思わず俺の口からこぼれたのは「なんでこんな事になってるんだよ」と怒りを孕んだ弱々しい声だった。


 人目も憚らず「喧嘩別れした時のあんたは一体どこに行ったんだよッ」と怒鳴れば、親父の濁った瞳が、ようやく力なく俺の方に向いた。

「イツキ、か……?」

 ひどく掠れた声だった。親父は、どこかぼんやりとした様子で俺を見ていた。みっともなく生えた無精髭、やつれた顔、骨が見えるほど細い手首。腹水のため腹部だけが膨れた身体――

 その事実を視認した俺は、言いようのない衝撃に涙腺が緩みそうになった。勝手にくたばっちまえばいいと思っていたのに、望まない再会で俺の胸を貫いたのは、少ない親父との優しい思い出だった。