親父が病院食で夕食を済ませて、薬を飲み、看護師が体温と脈拍を測りにくるまで、俺はいつも話し相手をしていた。個室の入院はとにかく暇なのだと言って、親父は必要以上に俺を引き止めるのだ。

「じゃあ、今度こそ俺は帰るぜ。また明日も来るからさ」
「明日はヨーグルトと菓子パンを持ってきてくれ。夜に食うから」
「了解。じゃ、また明日」
「ああ。また明日」

 その日も、特に変わり映えなく俺達は別れの挨拶をした。病室を出ながらちらりと盗み見ると、親父はもう漫画へと目を戻して読み耽っていた。漫画が好きなのなら、明日にでも買って持って来てやろうと考えて、俺は病院を後にした。


 翌日はよく晴れていて、俺はいつも通り出社した。帰りに書店に寄る計画を立てていた午前、仕事が始まってすぐ、病院から一本の連絡が入った。


 親父の意識が戻らないらしい。

 その唐突な知らせに、俺は昨日の晩まで元気だった親父が思い起こされて、頭の中が真っ白になった。朝に看護師が親父を起こそうとしたが目覚めず、担当医が意識確認を行って、軽い昏睡状態が始まっている事を確認したのだという。親父は目覚める気配もなく、昏々と眠り続けているのだ。