もう点滴ばかりのせいではないのだと、俺は告げなかった。血液検査の数値が良くなれば、退院の日取りが決められるのだと、自分の口からすらすらと出てくる嘘に胸が押し潰されそうだった。

 親父の腹水は、減るどころか急に増え始めた。苦しさのため食欲が減退し、親父は苛々し始めた。看護師に八つ当たりする姿を見た俺は、針で腹水を抜く事をもう一度提案した。親父は、今度は否定しなかった。

 その日の夕方、親父は初めて針で腹水を抜いた。

 すっかりなくなるまでとはいかなかったが、妊婦のように膨らんでいた腹は、だいぶ小さくなった。腹には手術痕が残っており、担当医は「三キロは抜けましたよ」と、いつもの笑顔で事後報告をした。


 おかげで親父の食欲が戻り、後日に普通食の解禁が病室で告げられてすぐ、俺はコンビニまで歩いてつまめそうな商品をいくつか購入しにいった。

 病室のテレビを眺めながら、二人で小さく祝うようにそれを食べた。親父は食事制限があったから、サンドイッチ、ショートケーキ、唐揚げ、巻き寿司を少しずつ口にした。残りは、その日の俺の夕食になった。