けれど、どんなに元気に見えても、親父の身体が弱っていっている事実は変えようがなかった。体力は刻一刻と落ち続け、ゆっくりと腹水がたまっていく。少しの会話で息が上がり、同じ階にある自動販売機まで歩くだけで呼吸が乱れるのだ。

 不思議と吐血がない事が、唯一の救いだった。吐き気による食欲の減退に比べれば、若干大きくなった腹水の内臓圧迫に悩まされる今の方が食欲もある。


 しかし、医者から「もう帰宅はないと考えておいてください」と宣言されたその入院から、三週間を数日過ぎた頃、腹水が少し苦しいと親父が訴え始めた。


「親父、針で腹水を抜いてもらおうか?」

 俺は、とうとうその提案を口にした。

 メリットとデメリットについて俺が説明すると、親父はしばらく考えて「癖になるのは嫌だな」と決断を渋った。

「どうにも我慢出来なくなったら、そうする。だが、この忌々しい点滴が少しでも減ってくれれば腹水も減るんだから、抜く必要はないんじゃないか?」