親父中心の生活は、学生時代の頃よりも体力的にきついものがあった。それでも俺は、誰かに指摘されれば苛立ちを覚えるほどに、この生活を気に入ってもいたのだ。

 親父といつでも会える距離にいて、仕事の帰り道に親父の事を考えながらスーパーに立ち寄り、友達のように言い会える時間が楽しくて仕方がなかった。俺は、親父が生きているための苦労ならば、幸せであるとさえ感じていた。

 まだ、大丈夫だ。

 余命宣告なんて、何度もあった。だから大丈夫。

 まだ時間が残されていると自分に言い聞かせた。親父を見舞うたび、彼の陽気な表情に笑って応え「また明日来るから」と俺が言い、親父は「おう」と答える。彼がここにいるという実感を目に焼きつけ、廊下に出て大きく深呼吸すれば、この生活の終わりなんて想像も霞んでくれた。

 俺は夜も遅くに病院を出ると、鞄に常用するようになったドリング剤を口に放り込み、アパートまでの運転に向けて気持ちを切り替えた。