この世界に生きていた男の話

 俺は家にいる時と同じように、親父から振られるとりとめもない話に付き合った。会話が落ち着いたタイミングを見計らって、それとなく入院の件について口にする。

「そういえば、血液の数値がいろいろと低いから、しばらくは入院して様子を見るらしい。三日間は昏睡状態だったし、体力もめちゃくちゃ低下しているから、日常生活が送れる程度に戻すためのリハビリも必要らしいぜ」

 すると、親父は「仕方ねぇだろうさ」と言った。

「確かに体調は思わしくないからな、こればかりは諦めて、大人しく入院しておくさ。来週の検査結果が良好だったら、リハビリを始めるって言われたな」
「そういえば、『それまではトイレの用件の他は、ベッドから降りられませんからね』って、ナースステーションにいた看護師に釘を刺されたんだけど。あんた、もしかして以前の入院の時に何かやらかしたのか?」
「この前入院した時な、深夜に抜け出してコンビニにいる猫を餌付けていたのが、とうとうバレたんだ」

 親父は、悔しそうに白状した。