血液検査で確認できるヘモグロビンの数字は、どうやら親父の元気指数のようだという事は分かっていた。それが一向に回復しないので、ひどい場合は点滴から補うようになっていたのだ。

 金額は張るが、ヘモグロビン数値が一時的に向上して安定すると、親父は元気に歩き回れる事が出来た。食欲も出て顔色も良い。その日に少しの制限を超えてしまう食事をしても、後日に副作用が現れないという特徴もあった。

「この数字が、春先からゆっくりと一定に落ち続けているのが気になります。春以前に関しては、体調に応じて上がり下がりを繰り返していましたが」

 恐らくは、と担当医は不意に声を落とした。

「あなたのお父様は、次の春を迎えるのは厳しいと思います」
「次の、春……」
「あなたも気付いているでしょう? 彼の身体は、内側の機能がすっかり弱くなってしまっています。今では少しの外出にも息が上がり、腹水だけが増え続けている。栄養も食べ物からの吸収が難しいため、夜間にはヘパを飲むようにも指導していますが、こちらでもほとんど効果が難しくなっている現状があります」