嫌な方向に慣れてしまった慎重にも思えるその生活態度が良かったのか、どの緊急搬送も、大事には至らなかった。親父が待ち構えていた発作が救急車内で起こり、二日ほどアンモニア数値の上昇で意識が朦朧とする事はあっても、内臓の数値はそれ以上の低下も見せず、癌マーカーも停滞状態が続いた。


 秋を迎えそうな肌寒い日、また入院した親父の様子を見に足を運んだ俺は、担当医に呼ばれて診察室で話を聞かされた。


「彼がここへ通い出して、もう六年が過ぎましたね」

 担当医は、親父のカルテを確認しながら、そう切り出した。

「彼と一緒に知識を身につけ、毎回の血液検査の結果を見ているあなたになら分かると思いますが……全体的に数字が上がりもせず、下がりもしていない事は気付いていますね?」
「はい」
「注目して欲しいのは、ヘモグロビンの数値なのです。彼が倒れるたび急激に減少しているので、最近は投与させて頂いていますでしょう?」
「はい、以前にも説明をされました」