今の親父が俺の言葉を疑わないのは、担当医がいつそんな事を言っていたのか、正確に覚えていないからでもあった。緊急手術中や処置直後の記憶は曖昧であったし、誰よりも俺がそばにいて医者の話を聞いている、という信頼感がそうさせてもいるらしい。

「他の病室もほとんど埋まってたぜ。一階のロビーなんて人が多くて、会計待ちがすごかったな」
「ふうん。今日が退院の日じゃなくて良かったな、イツキ?」
「ニヤニヤすんな、張った押すぞクソ親父」

 俺はわざと話題を変えて、それからさりげなく次の本題へと移した。

「ああ、それはそうと、あんたは最低でも一週間は入院だからな? 体調が悪いと、ろくに食事もとれないだろうし、食事や世話してくれる看護師がいる病室で様子を見た方がいいって事で、あの医者とは話しがまとまったから」
「まぁ仕方がないな。煙草が吸えないくらい腹が気持ち悪いし、この状態のまま自分で昼飯を用意するのも面倒だ」