すっかり親父が親しみを覚えるまでになった、どこか童顔の担当医は、病室に顔を出した際にこう言った。

「食道静脈瘤の破裂口はしばってありますが、胃にはまだ血液が残っています。数日かけてきれいになると思いますよ」
「つまり、それまでこの気持ち悪い吐き気は続くということか。うっぷ――イツキ、悪いがここにビニール袋、置いてもらってもいいか」
「恒例の、黒くなった血が混じった便も出ると思いますので」
「分かってる、いつものあれだろ。もうびっくりしたりするもんか。最初の吐血で慣れたよ」
「お薬は、いつも通りご自身で管理する、でよろしかったですか?」
「ああ。癖が強いから、自分の身体にあった時間分をきっちりずらさないと、副作用が強いんだ」
「分かりました。それでは、今の段階で点滴から補給されている分の薬に関しては、口から飲用する必要がないので、ナースステーションの方で預からせて頂きますね」

 担当医は、いつも自然な微笑みで親父を安心させてくれた。俺の口車に乗る意思を、弱りきった内臓から血が滲み出している事を説明しない様子から見て取れて、その気遣いには感謝した。