「集合住宅なんぞに住めるか。確かにこの一軒家は賃貸だが、この中古物件が気に入っているんだ。それに仕事用品を詰め込むんだったら、うちぐらい広い家じゃないと難しいだろう」

 いや、あんたには仕事を辞めてもらう気でいるから、そこは問題ないんだが……

 俺は、咄嗟に出掛けた言葉を飲み込んだ。仕事を続ける親父を見て、彼が仕事人間である事にも気付いていたから、もし、彼から仕事を取り上げてしまったら生き甲斐がなくなってしまうのではないか……という恐れを覚えた。

 親父は普段から、仕事の合間には煙草を吸い、家事を行い、テレビを見て、気ままに友人との雑談を楽しみ、俺と食事しながら脈絡のない会話のキャッチボールをする。誰もいない時間の大半を仕事に注いでいて、老眼鏡や虫眼鏡を使って機械の図面を確認するのも日課の一つだった。

「なぁ、親父」
「なんだ」
「ずっと仕事を続けたいのか? あんまり稼ぎにならないだろうに」
「家賃ぐらいは自分で稼げる」