俺はこの日、軽く交わされる言葉の中で、少しだけ都合がいいように親父に語り聞かせることを覚えた。それとなく優しい嘘を交えつつ、けれど明らかに間違えていると思われる情報は、混ぜないように気を付けた。

 親父はバカじゃないから、そんなミスを知られて警戒されても困る。患者の意思が病気を退けることもあるのだ。

 俺は以前から、精神医療に関する本も自宅で読んでいた。親父が笑って暮らせるためには、一番そばにいて関わる時間も長い俺に、そういったコミュニケーション能力も必要だと、彼が倒れたばかりの鬱状態の頃に痛感して読んでいたのである。


 担当医が告げたように、親父が吐血によって救急車を呼ぶ回数は、次第に増えていった。ちょっとした風邪で倒れた際に、咳込んだ衝撃で吐血する事もあった。

 少量の吐血であろうとも、小さな食道静脈瘤の破裂箇所は絶好調に痛むので、親父は激痛に苦しまされながら日中深夜を問わず、救急車を求めた。