通された診察室で、担当医は俺に向き直ると、親父のカルテを見せながら真面目な顔でこう切り出した。

「吐血は今後も増えるでしょう。あなたのお父様は、だいぶ身体が弱ってしまっています。食道静脈瘤が出てくるのが遅かったというだけですので、決して軽視されてはいけません」
「どういう事ですか……?」
「今回、破裂した静脈瘤は小さなものでしたが、大きなものの場合は死に至るケースがあります。肝臓癌の死因は、食道静脈瘤の破裂によるところも多くあるのです。今回の出血場所は縛ってありますが、他にも二つほど、危ないと思われる食道静脈瘤が確認されています。出来るだけ固い食べ物は避けるか、しっかり咀嚼するよう促して下さい」

 つまり親父は爆弾を抱えているのだと、担当医はにこりともしない顔で、俺に現実を突きつけた。

「ここまでの回復が信じられないくらいですが、いつ何が起こるか分からない状況であるのも確かです。内臓組織から血が滲みでるまでになったら、吐血を起こす事も更に増えるでしょう」