発作時は苦しかったらしいが、血液を吐いた後に健康な血を点滴でもらったせいか、今は調子がいいのだと親父は笑った。医者も「胃袋がきれいになれば、そんなものです」とにっこり笑い返した。

 それから、医者は近くにいた看護師に、親父の腕に繋がっている点滴について何かしら指示を与えると、俺に向き直った。

「少し、お時間よろしいですか?」

 入院や医療費の件だろう。俺がそう推測する隣で、親父が「仕事があるから長くはここで寝泊まりしたくない」と不満を口にした。

 それを聞いた医者がくるりと振り返り「まぁ様子見ですので、明日までは我慢してください」と微笑むと、親父が「なら仕方ないか」と唇を尖らせながら頷いた。さすがは患者の扱いに慣れているだけはある対応力だ、と俺は思った。

 親父と看護師を病室に残し、俺は担当医の後ろをついて廊下を少し歩いた。まるで幼少児の先生が似合いそうなその担当医の後頭部には、数える程度の白髪が浮かんでいるのが見えた。