俺と再会してからというもの、親父は思い出したように過去を語る事が増えた。それは過ごす時間を増すごとに多くなって、俺は脳裏に過ぎったいつかの未来の別れを振り払うように、次の話題へと誘うのだ。


 親父が吐血で倒れたのは、闘病開始から四年目になる夏の暮れだった。日中の職場に病院先から電話が掛かってきて、俺は急ぎ上司に断りを入れて、病院まで車を飛ばした。


 朝見た親父の顔は元気だった。それなのに、電話で聞いた話によると酷い吐血で意識もないらしい。もしかしたら、もう目覚めないんじゃ……そんな嫌な事ばかりが脳裏を駆け巡って、心臓が嫌な音を立てて痛かった。

 確かに最近、親父は少しだけ気持ちが悪いと言う事があり、食欲も落ちて食べる量も減っていた。俺は、そんな些細な変化に気付けなかった自分に、怒りと後悔を覚えた。

 ああ、神様。

 俺はこの時初めて、その名を心の中で呼んだ。

 きっと、神に祈る気持ちとはこれだろうと、俺は唐突に場違いなほど、見えないものの存在を想った。

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