スーツ越しにも分かる引き締まった身体は長く、年頃は三十前くらいだろうか。普段は活気溢れていると思わせるような、はっきりとした切れ長の瞳が印象的だった。

 男の顔立ちは精悍の一言に尽き、楽にした姿勢で酒を呑む姿も、どこか品が漂って様になっていた。姪っ子や甥っ子にも下に見られる僕からすると、兄貴風のその貫禄がすごく羨ましい。

 思わず見つめていると、ふっと目が合った。

 省吾さんからラストオーダーの旨を告げられたその男が、頼んだロックの酒のグラスを受け取った後、ついでとばかりに僕のいる方まで移動してきた。そして彼は、一口酒を呑んだかと思うと、前触れもなくぽつりぽつりと思案するように言葉をこぼし始めたのだ。


 切り出した言葉は、実にあっさりとしたものだった。

 彼は、「この世界にいた男の話をしよう」、とそう言った。