怖いばかりの嫌な男だと思っていたが、親父は子供のような一面を持っているらしいとも気付かされた。付き合いの長い友人同士のように、俺達は闘病を通して、多分、誰よりも打ち解けあっていたのだと思う。

 闘病生活が三年も過ぎると、親父は薬の管理もお手のものになっていた。病院帰りに、ドライブがてら遠くまで車を走らせることも珍しくなかった。

「お前、釣りはするか?」
「俺はやった事がないな。興味もないし、やるのはゴルフぐらいだ」
「なんだ、つまらん奴め。釣りはいいぞ、釣りは。俺が若い頃は、よく釣りに行ったもんだ」

 海が見える県に住んでいたが、生憎、俺は釣りという趣味は持っていなかった。

 話を聞くと、親父は若い頃は友人の漁船で、時折釣りを楽しませてもらっていたらしい。だから、海を眺められるドライブも気に入っていた。

「あいつの持ってる船は、小さな漁船だった。近くの沖まで船を走らせて、エンジンを切って釣り糸を垂らした。あいつが生きていたら、お前も連れて行けたのになぁ」