俺は怒鳴り過ぎたことを少し後悔していて、親父も自分の身体について甘い考えを少なからず持っていた事を反省しているようだった。互いに困惑混じりの仏頂面のまま、小さな声で謝罪しあった。

「ごめん、親父。なんていうか、会社でちょっとあって苛々していたんだ……」
「…………運転の事は、確かに軽率だった。買い物があれば、いつでもお前が車を出してくれるというのに、俺は自分の腕を過信していたんだ」

 もう、この話しはよそう。

 そう、どちらともなく結論が出た。親父は縁を切られたくないのだと感じて、俺は小さく胸が痛んだ。俺だって、途中で親父を放棄するなんてもう考えられなかったから、二度とそんな台詞は口にしないと心に誓った。

 親父の闘病生活に付き合うのは、とっくに俺自身の日常となっていた。二人で過ごす時間は、幼少の頃とは違い、大人同士の対等な関係のように気楽だった。

 コメディ番組を見て互いに腹を抱えて笑い、興味のある映画を真剣に見た後に批評をぶつけあう。闘病生活の改善案や状況を報告し合う時間を、親父も気に入っているようでひどく饒舌になった。