料理にケチをつけられた事が悔しくて、俺は減塩料理本を片手に、親父に文句の言われない減塩料理を目指した。ハーブや果汁を利用し、出汁にも凝った。市販の梅干しや薫製を家庭でも作れると知って、それにも手を出した。

 食事に文句を言わなくなった親父が、次に言ったのは「冷たいゼリーが食べたい」と言うものだった。

 市販のゼリーは化学調味料が入っており、親父が飲用している薬との相性も分からないのであげる訳にはいかず、俺は生まれて初めてデザート作りに挑戦する事になった。多分、奴があと何日生きられるか分からないという、脅しみたいな医者の宣言も効いていたのかもしれない。


 慌ただしいままに一週間が過ぎ、料理とゼリーの味が飛躍的な向上を続ける間に、二週間が経った。


 定期検診のため、俺は親父を車に乗せて、二週間ぶりに病院へ連れていった。

 どうしたことか、親父の余命が一ヶ月に伸びていた。相変わらず親父の目に活気はなかったが、担当医となった男の話に大人しく耳を傾ける様子が珍しくて、俺は神妙な気持ちを覚えて何も言わなかった。