テレビの置かれた居間の、端の方に備え付けられていたパイプベッドは、俺が一緒に住んでいた時と変わっていなかった。すっかり寝台部分が歪み、マットはニコチンで黄ばんでいた。毛布には、煙草の焦げ跡も目立つ。親父の家は畳み間がほとんどだったが、そこに昔からあった煙草の焦げ跡の他にも、真新しい焦げ跡が出来ていた。

 居間の襖の向こうにある七畳間が、昔俺が使っていた部屋だった。そこには中身が空っぽのタンスと、埃被った勉強机だけが置かれていた。散らかっている他の部屋よりも閑散としていたが、襖が半分ほど閉じていたその部屋は、しばらく人の出入りもなかったせいか、強い湿気と黴の匂いが漂っていた。

 身体の自由が利かないから、親父には介護が必要だった。病院側で一時的に峠を乗りこえたとはいえ、親父の余命は一週間ほどだろうと医者は言っていた。

 俺は、まだ二十代前半の若造で、一体どうすればいいのか分からなかった。介護なんて経験は皆無であり、当然のように知識もない。