劉赫が声を張り上げ、手を挙げた瞬間、劉赫の体から巨大な神龍が飛び出すように現れた。

 突然現れた神龍に戸惑い、饕餮の口が塞がれる。

 解き放たれた神龍は、とぐろを巻いて天井から劉赫と饕餮を見下ろしている。

眠っていたところを急に起こされたかのように、ぼんやりとしていて事態がまるで飲み込めないといった様子だった。

 神龍は普段はとても大人しい。

攻撃性もなく、どちらかといえば臆病で引っ込み思案な性格だ。

 その神龍に戦ってもらうためには、宝玉を与えなければならない。

しかしながら、宝玉を五本の爪で持ったが最後、神龍は暴れ狂い、自我を失った神龍は主である皇帝にも牙を向ける。

 劉赫の命さえ危険な状況になるが、威力は絶大で使わない選択肢はない。

饕餮を倒せるのは紛れもなく神龍しかいないのだ。

「神龍! 受け取れ!」

 人間の頭部ほどの大きさの宝玉は、この世に二つとない貴重な原石を摩擦し形を整えたものだ。

 その宝玉を神龍に投げつけると、神龍は五本の爪でしっかりと受け取った。

 すると、神龍の瞳の色がみるみるうちに茶黒から紅色に変化していく。

神龍の髭が逆立ち、地底を這うような雄叫びが上がる。

 こうなってはもう、誰も神龍を止めることはできない。

正気を失った神龍は、饕餮よりも厄介な恐ろしい存在だ。

(毒をもって、毒を制す。あとは天に任せるのみだ)