開け放たれた大廟堂の扉の外から、ゆっくりとこちらを窺うように右往左往しているのは、貪欲な霊獣、饕餮である。

 胴体は毛むくじゃらの牛か羊のようで、筋肉隆々の肩は大きく張り上がっている。

太く曲がっている角の先端は鋭く、虎のような牙が悍ましい。

体の大きさのわりに目は小さく、あまり見えていないようだ。

何でも食べる饕餮には、目はあまり必要ないのだろう。

 小さな丸い目で、大廟堂の中に一人佇む劉赫の存在を認識すると、饕餮の足取りは確かなものとなり、戸惑うことなく大廟堂の中に入り込んだ。

 饕餮が完全に中に入ると、隠れていた門番が勢いよく音を立てて扉を閉めた。

饕餮は、出口を塞がれたことに一瞬驚くも、すぐに劉赫の方に向き直った。

(なるほど、こいつの目的は俺だったのか)

 饕餮と対面した劉赫は、腰に差した剣を抜くこともなく、ただ睨みながら立っている。

 饕餮はやっと目的の獲物に会えた嬉しさで、顔が綻んでいるように見える。

 そして、劉赫を食べようと口を開いた。

すると唇が割かれたように大きくなり、パカリと開かれた口は、人間を頭から丸飲みできるほどの高さとなった。

 恐ろしい姿に、劉赫はゾクリと寒気を覚えた。

しかし、恐怖は戦闘心をかきたてる。

劉赫はもう、臆病で甘えん坊な子供ではない。

 目の前でただ恐怖に怯え泣きながら、兄たちの死を見ていた非力な自分ではない。

自らの力で守りたいものを守れるほど強くなった。あんな思いは二度としない。

「我が身に宿った神龍よ、解き放たれよ!」