「どうしよう、仙婆。劉赫は人間なのよ。もしも、死んでしまったら……」

 雪蓉は、体の芯から冷えていくのを感じた。

 どうして、劉赫一人に任せてしまったのだろう。

全てを劉赫に丸投げしているようなものだ。

(なんであいつ、あんな自信満々で……。

痛みを忘れたわけじゃないでしょうに。

たった一人で戦って、あんなところまで川に流されて、生きているのが奇跡のようなものだったのに)

「もう案じても仕方のないことじゃ。戦いは始まった。もう誰にも止められぬ」

 雪蓉は、思い出していた。

『大丈夫だ、雪蓉。俺が皆を守る』

 あの時、優しく微笑む劉赫の瞳の奥に、陰りが見えたことを。

(どうして気付いてあげられなかったんだろう。

きっと、劉赫は怖かったはずだ。

絶対に無傷では済まないと分かっていながら、死ぬかもしれないと思いながら、皆を守るために一人で戦う決意をした。

心配されないように、心の怯えを隠しながら。

あいつは……劉赫の生来の性格は、そんなに強い男じゃないのよ。

怖がりで甘えん坊で、皇帝になるなんて本人も露ほども思っていなかったはずよ。

それなのに、全てを背負い込んで……)

 雪蓉はいてもたってもいられなくなって、仙術に冒された衛兵たちを平低鍋で片っ端から殴りかかった。

 明豪もそれに続く。

雪蓉よりも強い明豪は、正確で速い所作で次々と衛兵たちを倒していく。

衛兵たちは頭を殴られると赤い実を口から出して倒れた。

 雪蓉も明豪も、無力な自分が悔しかったのだ。

 祈ることしかできないわけではない。今は、目の前に倒すべき相手がいる。

 劉赫の無事を願いながら、雪蓉は平低鍋を振り回し続けた。