「二か月ほど前か……。

悪神である霊獣の一つ、驩兜(かんとう)が結界を破り逃げ出したことがあった。

幸い驩兜は人里離れた山奥に逃げ込んだゆえ、劉赫様がお一人で戦われ、無事に驩兜を倒し結界に戻すことに成功なされた。

今思うと、あの事件も不可解だった。

今回の仙術の犯人と繋がっているのかもしれないな」

「待って。二か月前? 私が劉赫を助けた時じゃない」

「そうだ。そんなことがなければ、皇帝一人で宮廷から離れるわけがないだろう」

「違う、問題はそこじゃない。無事に? あれのどこが無事なの?」

 雪蓉が劉赫を川辺で見つけた時、劉赫は死にかけていた。

雪蓉が助けなればどうなっていたのか。

「だが、劉赫様は問題なかったとおっしゃっていたぞ。確かに怪我はしていたが、すぐに治ったし……」

「馬鹿っ! 劉赫は死にかけてたのよ!

三日も高熱を出して目を覚まさなかったし、あれのどこが無事なのよ!」

 馬鹿と言われた明豪は、面食らった。

それだけではない、劉赫が死にかけていたというのも初耳だった。

 神龍はこの世で一番強いもの。

神龍さえ解き放てば、怖いものなどない。

 皇帝に任せていれば安心だと誰もが思っていた。

……明豪でさえも。