女巫としての仕事を終えた雪蓉たちだったが、まだゆっくり休めるわけではない。

小さな女巫たちには、豚や牛のお世話を任せ、雪蓉は水を汲みに川へと向かった。

 川へ行くには、当然山を下りなければいけない。

片道一時間で山を下り、重い水桶を担いで山を登る。

大変な肉体労働だったが、雪蓉はもう慣れたものだった。

 川に着き、水桶を小石が敷き詰められた地面に置くと、川原に大きな黒い物体が横たわっているのを発見した。

「熊かしら。やったわ、今日は熊鍋よ!」

 動かないので死んでいると思った雪蓉は、ほくほくしながら近付いて行くと、どうやら熊ではないことに気が付いた。

「嘘! 人間⁉」

 慌てて駆け寄る。

横たわっていたのは、ボロボロの服を着た男だった。

川原に打ち上げられて、数時間はたっているのか、服も髪もほとんど乾いていた。

しかし、衣は所どころが破けていて、血がつき乾いたのか赤黒く染まっている。

黒髪はグシャグシャで、わかめのように顔にへばりついている。

死体だと思っていた雪蓉だが、男の胸が小さく上下に動いているのに目が向いた。

(生きてる!)

男の口元に頬を寄せると、かすかに吐息が感じられた。

雪蓉は迷うことなく男を背負うと、男の足を引きずるようにして山を登り始めた。