いくらしめ縄の外には出られないと分かっていても、怖いのだ。

雪蓉でさえ、洞窟の中に入ると独特の緊張感に包まれる。

「ええ、そうね。早く出ましょう」

 いびきの音が止まる。

饕餮が、料理の匂いに気が付いたのだ。

 しめ縄に背を向け、小走りで外へと向かう。

小さな女巫たちは、全力で走っている。

 ふと、気になって足を止めた。

おもむろに振り向くと、闇の奥に光る二つの目が見えた。

小さな丸い宝石のような目が、雪蓉を(とら)えていた。

 ゾクリと背筋が凍り付く。

見つめ合ったまま、体が動かなかった。

 すると、小さな目に不釣り合いなほど、大きな口が開いた。

四本の大きな鋭い犬歯と、歯に絡まった唾液が糸引き、闇の中に白く光る。

大きく開いた口は、雪蓉の身長ほどの大きさがあった。

 あまりの口の大きさに、「ひっ」と短い悲鳴を漏らし、逃げるように洞窟を出る。

明るい日差しを浴びて、ようやく身の安全を感じた。

「雪姐、大丈夫?」

 息を荒げている雪蓉を見上げ、心配そうに小さな女巫が訊ねる。

「ええ、大丈夫。何でもないわ」

 小さな女巫の頭を撫でて、笑顔を向ける。

けれど、心臓は早鐘を打つように鳴り続けていた。

あの大きな口に飲み込まれたら、まず助からないだろう。

雪蓉は、自分が饕餮に食われる姿を想像して、ぞっと身震いした。