「では、劉赫は目の前で兄たちを……」

 思わず、様とつけずに、いつものように劉赫と呼んでしまっていた。

そのことに華延は気付いていたが、にっこりと微笑むだけで気にしていないようだった。

「そう。劉赫は兄たちが大好きだった。

兄たちはいつも、臆病で気弱な劉赫を守ってくれていたの。

どんなに怖かったことでしょうね。

兄たちと違って、剣を持つことですら怖がるのに、目の前で、見たこともない化け物が大好きな兄たちを食い殺すのを、あの子はどんな気持ちで見ていたのかしら……」

 華延の目には、うっすらと涙が滲んでいた。

 雪蓉はてっきり、華延と劉赫は仲が悪いのだと思っていた。

しかし華延は、劉赫を憎く思うどころか、いつも心配し愛しているのだと感じた。

(どうして劉赫はあんなことを……)

 こんなに愛されていながら、劉赫はなぜ母親に憎まれていると思うのか。

「劉赫は自分の顔が嫌いなようです。それに、華延様が自分の顔を恐ろしく憎いと思っていると言っていました」

 華延はその言葉を聞いて、驚くそぶりはなく、悲痛な表情を浮かべた。

「わたくしが悪いの、全て。

あの事件から、劉赫の顔が神龍に見えるの。

劉赫を見ると、息子たちを食い殺した神龍を目の前にしているみたいで、どうしても近寄ることができないの。

劉赫の中に、神龍がいるというのも影響しているらしくて。

だからわたくしね、あの子の今の顔が分からないの。

きっと精悍(せいかん)で美しい若者に成長したんでしょうね。

創紫や、春摂や、甲斐のように」

 ああ、だからか……。雪蓉は胸の中で呟いた。

大好きな兄たちを殺した神龍が自分の中にいる。

そして、きっと劉赫自身も、自分の顔が神龍に見えるのかもしれない。

だから、鏡を見られないのだ。

 劉赫がかわいそうに思えてきた。

彼は、想像以上に過酷な運命と戦っている。

劉赫も、華延も、互いを思いやるからこそ、辛いのだろう。

 全ての真相を聞き終えた雪蓉は、重い足取りで岐路についた。