「わたくしの夫、煉鵬(れんほう)陛下が逝去され、皇位継承儀式が執り行われたのが十四年前。

彼には四人の皇子がいて、いずれもわたくしの息子。

一番上の創紫は当時二十八歳。

二番目と三番目は双子で、春摂と甲斐。二十二歳だった。

そして、劉赫は、当時十歳。

創紫はいずれ皇帝となる第一皇子だったから、厳しく躾る必要があって、春摂と甲斐も重要な要職に就くでしょうから、創紫をしっかり支えられるように育てたわ。

劉赫は陛下が五十歳の時の子で、まさかできるとは思わなくて驚いたの。

小さな劉赫を、皆がとても可愛がったわ。

そしたら、勇敢な兄たちとは違って、怖がりで甘えん坊な子になっちゃって。

でも、その分とても可愛くて、兄たちがしっかりしているから、こういう子もいていいかなって伸び伸び育てたの」

 劉赫が怖がりで甘えん坊だったなんて、とても意外な話だった。

今ではその要素は皆無だ。

そして、劉赫を語る華延の表情は、とても優しく嬉しそうだった。

しかし、その幸せそうな表情がだんだんと曇っていく。

「陛下が亡くなり、皇位継承儀式が行われた。

皇位継承権を持つのは、神龍に選ばれし者。

でも、神龍が選ぶといってもそれは形式だけで、第一皇子の創紫が継ぐと誰もが思っていたの。

神龍はとても大人しく、従順な生き物。

あんなことが起きるなんて、誰も想像していなかった」

「あんなこと?」

 思わず聞いてしまった。

一庶民である雪蓉は、皇位継承儀式で、皇子たちが不慮の事故死を遂げたとしか聞いていない。

「何者かが神龍に宝玉を与えたの。

聖なる宝玉を五本の爪に収めた神龍は、我を失い暴れ狂う。

宝玉は神龍の偉大な力を使いたい時にしか、決して与えてはいけない諸刃の剣のようなもの。

それを、あろうことか、皇位継承儀式の時に使われた。

……結果、我を失った神龍は息子三人を食い殺した。

()(しろ)を失ったことに気が付いた神龍は、最後に残った劉赫の体に宿るしかなかったのね。

神龍は代々、皇帝の体を住み家とするの。そうして、幼い劉赫は皇帝となった」

 神龍が皇子たちを食い殺したなんて事実は初耳だったし、神龍が皇帝の体に宿ることも知らなかった。

神龍の加護を持つ皇帝と崇められてきたけれど、本当に神龍がいるということでさえ半信半疑だったのだ。