「お断りもなく入ってしまい申し訳ございません。潘 雪蓉と申します」

 雪蓉は袖に手を入れ拱手の礼をとった。

「雪蓉……聞いたことがあるわ。あっ、劉赫が初めて自分の意思で後宮に入れた貴妃のお名前だわ。あら、そう、あなたが……」

 劉赫と呼び捨てにしていることからして、この人が劉赫の母君ということに間違いなさそうだ。

 嬉しそうな眼差しで雪蓉を眺める姿に、危惧していた意地悪で厳しい方ではなさそうで胸を撫で下ろす。

「わたくしは華延(かえん)。宜しくね、雪蓉ちゃん」

 親しげに呼ばれて、胸の奥がくすぐったくなるような複雑な気持ちだった。

四阿の中へ案内され、長椅子に腰をおろす。

 卓には、白磁の茶壷から紅梅の甘い香りが漂っている。

「いい香り……」

 思わずうっとりと呟くと、華延は嬉しそうに目を細めた。

九曲紅梅(きゅうきょくこうばい)というお茶よ」

 珍しい茶葉の香りに、料理人としての血が騒ぎ、香りを大きく吸い込む。

このお茶に料理を合わせるなら何がいいだろうと考えた。

 華延は、飲杯(インハイ)に茶を注ぎ、おもてなしすることが嬉しくてたまらないといった笑顔を見せている。

 雪蓉は、あっと思い出し、懐から小さな布袋を取り出した。

そして、包み紙を取り出すと卓に広げた。

「宜しければ、お茶のお供にこちらをお摘まみください。私が作った琥珀糖です」

「まあ、これをあなたが作ったの? とっても綺麗」