かくして、後宮にいるという劉赫の母君に会いに行くことにした雪蓉だったが、思わぬ形で横槍(よこやり)が入る。

劉赫の母君に会いたいから取り次ぎしてと頼んだら、女官が血相を変えて反対したのだ。

皇太后様に拝謁(はいえつ)を願い出るなど例外がない、非常識だと散々(わめ)き散らされ、雪蓉は反省した様子でうんうんと頷き、殊勝な態度で聞いていた。

最近、雪蓉付きの女官の態度が変わってきていた。

距離を置き、用がない時は近付こうとすらしないが、雪蓉が暴力を振るったりすることはないと分かったからか、容赦なく文句をぶつけてくる。

しかしながら、そこで諦めるような性質ではなかった。

反省しているように見えたのは、一刻も早く説教を終わらせて、自力で皇太后の宮に潜入しようと企てていたからである。

そして、雪蓉が反省したとすっかり信じきった女官が、立ち去るのを確認してから、雪蓉はそろりと動き出した。

 皇太后の住まいは、後宮の北側、太麗宮(たいれいぐう)にある。

後宮の奥地にひっそりと建つ広大な屋敷。

金緑石色に輝く瓦をのせた大邸宅の奥に、寝殿や対の屋がある。

美しく整えられた庭院には、四阿(あずまや)があり、梅の花が咲き乱れこの世のものとは思えぬほど見事な景観だった。

 雪蓉は木の上から太麗宮を見渡し、品が良く趣味のいい(あるじ)が住んでいるのだなと思った。

劉赫のお母様はどんな方なのだろうと想像を巡らせる。

(意地悪で厳しい方だったら嫌だな……)

 初めて姑に会いに行く気分になり、雪蓉は気が重くなった。

不本意とはいえ、現在の雪蓉の位は、貴妃。

皇太后にとっては、雪蓉は嫁のような存在だ。

(サクっと聞いて、サクっと帰ってきましょう。とはいっても、どこから忍び込むか……)