明豪から劉赫の母君が後宮にいると聞いてから、早三日。

 饗宮房で、劉赫の昼餉を作っている雪蓉は、行くべきかまだ決めきれていなかった。

 劉赫の母君について雪蓉なりに調べたところ、劉赫の母君は離宮に住んでいるらしい。

後宮とはいっても、今上帝が頻繁に立ち寄る若い妃たちがいるところとは離れているという。

 母君なりの気遣いなのかもしれないが、今のところ劉赫が後宮に来たのは一度きりだ。

(同じ後宮内っていっても、気軽に行けるような距離じゃないのよね。広すぎなのよ、後宮は)

 雪蓉は、ほかほかのご飯をふんわりと握りながらため息を吐いた。

鰹節と醤油の香ばしい香りが広がる。

 劉赫は、昼餉は握り飯だけでいいという。

公務の傍ら食べるので、邪魔にならず気軽に食べられる握り飯が最適なんだとか。

今まで昼餉は食べていなかったらしいので、握り飯だけでも食べるようになったのはいい変化かもしれない。

(そういえば、焼きおにぎりを食べた時、もの凄く感動してたわね。

三食三晩これだけでいいとか本気で言ってたわ。どんだけ好きなのよ、握り飯)

 米は温かい状態で食べるものという価値観があり、冷めた握り飯は下賤(げせん)な者が食すものという考え方が根強い中で、握り飯が好物という皇帝はやっぱり変わっている。

 あっという間に作り終えてしまい、雪蓉は手持ち無沙汰となってしまった。

 後宮にいても、やることがない。

他の妃たちもさぞ暇だろうと思っていたが、妃たちは美を保つために様々なことをしており、忙しいのだという。

湯浴みもカラスの行水の雪蓉にとっては理解に苦しい話だ。

(そうだ、久々にアレを作ろう)