後宮へ戻る道すがら、明豪の斜め後ろを歩きながら、雪蓉は肩を落としていた。

(お母様との間に何かあったのかしら……)

 自分の顔が嫌いなのは、筋金入りのようで、それが雪蓉には勿体(もったい)なく感じた。

(顔だけはいいのに……)

 失礼なことを胸の内でぼやきながら雪蓉はため息を吐いた。

 チラリと明豪の顔を盗み見る。

(彼なら、何か知っているかしら。皇帝付きの専属護衛よね、確か)

 今ではすっかり雪蓉付きの護衛になっているが、文句も言わず、不満も顔に出さず職務を全うしている。

「あの……」

 雪蓉が声を掛けると、明豪は睨むような眼差しを向けた。

途端に背筋が凍るが、負けじと姿勢を正す。

「劉赫とお母様との間に何かあったのですか?」

 雪蓉の問いに、明豪は渋面を作った。聞いてはいけないことだったのかと思い、萎縮すると別のことで怒られた。

「劉赫様と呼べ」

「あ、すみません」

 明豪の気に障ったのは、お母様とのことを聞いたのではなく、皇帝を呼び捨てにしたからだった。

明豪は、ふんっと鼻を鳴らすと予想外のことを教えてくれた。

「本人に直接聞いてみればいいだろう」

「聞きましたけど、教えてくれませんでした」

「劉赫様ではない。劉赫様の母君に」

「え?」

 口をポカンと開け、驚いている雪蓉に、明豪は不敵な微笑みを投げかける。

「劉赫様の母君は、後宮にいらっしゃる」