「前にも言ってたわよね。自分の顔が嫌いだって。

鏡がなかったら不便じゃない? もしも顔に汚れがついていたらどうするの?」

「官吏が気付いて拭くだろ」

「えー、でも汚れなら言いやすいけど、鼻毛とか出てたら指摘しづらくて放置されてるかもしれないじゃない」

「あいにく鼻毛は出ない」

「分からないじゃない。寝ぐせがびょーんとか海苔(のり)が前歯にくっついてたりとか」

「お前と一緒にするな。それに、そんなくだらないことよりも、自分の顔を見る方が耐えられない」

 苦悶(くもん)の表情を浮かべる劉赫に、雪蓉は押し黙った。

「自分の顔が嫌いだなんて、まるで自分のことを嫌いって言っているみたいよ……」

「嫌いなんて生温い言葉では足りないな。殺したいほど憎い」

 物騒な言葉に、雪蓉は自分が言われたわけでもないのに傷付いた。

「自分が憎いだなんて……お母さん、悲しむわよ?」

 劉赫は、雪蓉の顔を見ず、料理を一心に見下ろしながらぼやいた。

「……俺よりも、母の方が何倍も、俺の顔が恐ろしくて憎いだろうよ」

 劉赫がとても辛そうに見えたので、それ以上、雪蓉は何も言えなかった。