雪蓉は怒りながら、自分が作った料理を口にする。

劉赫の口から褒め言葉が出るのを諦めたようだ。

(……美味いに決まってるだろ)

 劉赫は胸の中で呟く。

心の底から思っていることだけに、口にするのが気恥ずかしい。

とても大切な思いだからこそ、気軽に口には出せないのだ。

 雪蓉をとても大事に思っていることも、本人には伝えられない。

 雪蓉は食べながら、厨房の設備がとても素晴らしいと褒めたたえた。

食材も選び抜かれた一級品ばかりで、作るのはとても楽しいと。

 饒舌(じょうぜつ)に喋る雪蓉の話を、劉赫は適当そうな相槌(あいづち)を打ち、聞いている。

 いいかげんな相槌なので、聞いているふりをしているのかと思いきや、劉赫は案外楽しんでいた。

 話し好きの雪蓉のおしゃべりを、しっかりと聞き心に留めている。

どんなくだらないことだって、劉赫には関係のない話だって、彼女と会話するのは楽しい。

「そういえば、不思議なことが一つあって……」

「ん?」

「鏡がないのよね。後宮には小さな手鏡はあるけど、厳重に管理されていて、むやみに部屋に置いては駄目って言われたの。

それで意識して鏡を探していたんだけど、後宮の外にも見つからないの」

「あー、それは俺が鏡嫌いだからだ」

 鏡嫌い⁉ なんだそれは。雪蓉は心の中で突っ込む。

「どうして⁉」

「自分の顔を見たくない」

 劉赫は淡々と料理を口に運ぶ。