「これから毎日、料理を作ってくれるのか?」

「ええ、あなたの味覚が治るまで。その代わり、味覚が治ったら私を帰してね」

 サラリと付け足した言葉に、劉赫の眉が寄る。

「……逆にいえば、治るまでは、ここにいるということか?」

「不本意だけど、仕方ないわよね。脱走しようと試みたけど難しそうだし、仮に脱走できてもまた連れ戻されたなら意味ないし」

 脱走して身を隠すならまだしも、雪蓉の行き先は知られている。

それならば、味覚が治る方に賭けた方が現実的だ。

……それと、なんだかんだいって、劉赫のことが心配でもある。

食べ物が美味しく感じないなんてかわいそうだ。

雪蓉の料理なら美味しいと感じるのなら、作ってあげたいとも思う。

 雪蓉は元来、世話好きの情に厚い性格だ。困っている人を見ると放っておけない。

 劉赫は、指を顎に当て、考え込んだ。

この要求を飲むか、否か……。

「朝も昼も夜も、雪蓉が作るのか?」

「そうよ、感謝しなさい。私は恩を売っているんだから、ちゃんと返してよ」

 雪蓉の返答に、劉赫は思わず破顔(はがん)した。

 考えてみれば、最高の申し出かもしれない。

劉赫の味覚が治ることなど、まずないであろうし、いつ脱出されるのかと気を()む必要もない。

 雪蓉は自ら進んで劉赫の食事を作ってくれる。無理強いした結果ではない。

「いいだろう」

 劉赫の言葉に、雪蓉は「やった!」と喜びの声を上げた。

 互いにとって利益のある契約である。

劉赫は笑顔になった雪蓉を見て、口の(はし)を緩めた。